内田静馬 《時鳴鐘》
最終更新日:2015年1月3日
1960年(昭和35)頃
紙、多色木版 30.0cm×36.5cm
シンプルな木版ならではの勢いを感じさせるこの作品は、川越の象徴ともなっている「時の鐘」を描いたもの。本川越駅方面から蔵造りの町並みを進み、一番街と鐘突き通りの交差点から右手に見える風景である。
内田静馬は川越中学校(現埼玉県立川越高校)出身、居所は隣の桶川市だったことから、川越への思いはあつかったようだ。《時鳴鐘》は「川越八景」と題して連作した8点のうちの1点。多色刷りのよさを生かした墨部分の少ない、すなわち明るい色面の目立つ画面は華やかな印象を与えている。また、ぺったりとした版面とはいえ木地の写り具合や微妙な色の濃淡などから、みずから刷った(自摺)ものならではの作者の意図、狙いを読み取ることもできる。ずいぶんとシンプルな作りに感じられるが、あるいはこれくらいバッサリと削り取ってしまうのも潔く感じられる。作品の風景と現在の実景とあわせてみるのもまた、ご当地の楽しみだろう。