井上安治 《駿河町夜景》
最終更新日:2015年8月23日
制作年:1881-89年(明治14-22年)頃
判型技法:横四ツ切判錦絵
寸法:10.1cm×15.8cm
井上安治の師であった小林清親は、1881年(明治14年)、好評だったと思われる「光線画」を突如として止めてしまう。そのあとを継いだ形になったのが、四ツ切判という清親作品の4分の1の大きさの画面で、「光線画」の面影を残す作品を断続的に発表した井上安治である。
清親作品をほぼそのまま縮小したもの、改変したもの、安治独自の取材によると思われるものなど、四ツ切判二丁掛(四ツ切判を横に2枚繋げた大きさ)の作品も含めると134図が知られている一連の作品は、安治の没後「東京真画名所図解」という名称で1シリーズのように扱われた。しかし、版元は判明しているだけでも福田熊治郎と松木平吉の2者があり、制作年も1881年から没年頃までと幅が広いことなどから、明確なシリーズとして刊行されたとは考えにくいだろう。ともあれ、1889年にわずか26歳で夭折してしまう安治の名を今日に伝える代表的な作品となったことは確かである。
《駿河町夜景》は、現在の中央区日本橋室町の三越本店界隈である。路上を馬車や人力車が行き交い、満月に照らされた土蔵造りの呉服店越後屋(三越の前身)の背後には、屋根の頂に鯱を乗せた三井銀行がシルエットで描かれる。清親がほぼ同視点から描いた《駿河町雪》は雪景だが、安治は夜景に描き変えた。空に施されたぼかしの淡色がもう少し明るいのが一般的だが、当館所蔵の版は全体的に配色が暗く、版面にも乱れが見られる。かなり後の摺りか。
(『川越市立美術館コレクション選』2012年より一部改訂)