市指定文化財　木造随身像

　仙波東照宮(注1)の随身門(注2)に安置された老壮一対の随身倚像(注3、4)。阿形が老随身、吽形が壮年随身(注5)。ともに装束は武官束帯(注6)。冠(注7)をかぶり、おいかけ(注8)を付け、ゆうぜん(注9)。上衣は闕腋袍(注10)、袴を付け、沓を履き、左手に弓、右手に箭[や]を執り、背に靭[うつぼ] (注11)を負い、框座(注12)の上の椅子に腰かけた姿。
　像高は、老随身像が94.8cm、壮年随身像が83.5cm。框座を含めた総高は、老随身像が115.3cm、壮年随身像が103.8cmある。
　造りは、寄木造(注13)、玉眼(注14)、彩色を施す。老随身像の袍は黒に銀灰色の蛸唐草輪文、壮年随身像の袍は朱に赤色の蛸唐草輪文。袴は白地に金の市松模様、木瓜紋を配す。椅子は虎皮の縞模様を左右側面に表す。框座は正面に緑地に三巴紋を一対配す。
　仏師は、壮年随身像の椅子の天板内側に「享保十九年甲寅八月　大仏師　采女　石見　利京　」の墨書があったことから、享保19年(1734)に采女ほか2名(所属・姓は不明)により造立されたことがわかる。
　享保19年は、川越藩主秋元喬房(注15)が2基の石燈籠を献燈していることから、その時期に随身門に何らかの手が加えられた際に造立されたと推定される。
　本像は、美術工芸的には形姿相整った江戸時代の典型的な随身像であり、現状の保存状況や東照宮の歴史等から文化財的価値が高いと評価できる。
　
注1　仙波東照宮[せんばとうしょうぐう]　元和元年(1616)没した家康を久能山から日光に移葬する際に喜多院に4日間逗留し供養したことから寛永10年(1633)天海僧正により建立される。寛永15年(1638)1月の川越大火で焼失。幕府の命で川越藩主堀田正盛を造営奉行とし寛永17年(1640)再建される。宮殿・幣殿・拝殿・唐門・瑞垣・石鳥居・随人門が重要文化財の建造物。東照宮に奉納された岩佐又兵衛作の三十六歌仙額が重文。岩槻藩主阿部重次が奉納した鷹絵額12聡が県指定。
　
注2　随身門[ずいじんもん]　神社の門の左右に安置した守護神像。この二神はかどもりの神[かどもりのかみ]あるいは看督長[かどおさ]といわれ、俗に矢大神(矢大臣)・左大神(左大臣)と称される。寺院の仁王門にならったものとも言われる。
　
注3　随身[ずいじん]　平安時代以降、貴族の外出時に護衛として随従した近衛府の官人。
　
注4　倚像[いぞう]　倚子に腰をかけた姿の仏像。
　
注5　阿形・吽形[あぎょう・うんぎょう]　阿吽は仏教の呪文の一つ。阿は口を開いて最初に出す音、吽は口を閉じて出す最後の音であり、そこから、それぞれ宇宙の始まりと終わりを表す言葉とされた。狛犬や仁王など、一対で存在する宗教的な像のモチーフとされた。
　
注6　束帯[そくたい]　平安時代以降の有位の男子の正式装束。
　
注7　冠[かんむり]　ここでは束帯に伴う被り物。
　
注8　[おいかけ]　冠の左右につける馬尾毛製の半円状の飾り。
　
注9　[ゆうぜん]　髯があること。
　
注10　闕腋袍[けってきのほう]　武官用の束帯の上着。
　
注11　靭[うつぼ]　矢を入れる容器の一種。
　
注12　框座[かまちざ]　像などの最下段の台。
　
注13　寄木造[よせぎづくり]　木造彫刻造りの技法の一つ。頭部、胴部などを別々の木材に彫り、内刳[うちぐり]の後、はぎ合わせて造る手法。一般的には10世紀後半から始まり、定朝作の平等院鳳凰堂阿弥陀如来坐像で完成したとする。
　
注14　玉眼[ぎょくがん]　目の部分に水晶をはめ込み、実際の目に近い感じを出す技法。
　
注15　秋元喬房[あきもとたかふさ]　川越藩第10代藩主。在任期間正徳4年(1714)から元文3年(1738)。